『特許翻訳の実務 〜英文明細書・特許法のキーポイント〜』
2015/01/01
『特許翻訳の実務』というタイトル、著者に並ぶ時國さんのお名前、『特許の英語表現・文例集』『特許翻訳の基礎と応用』など有用な書籍を出している講談社からの出版、という書誌事項だけを見ていわゆる「ジャケ買い」してしまいましたが、個人的には少し期待外れな内容でした。
まず、全体をざっと眺めてまず最初に感じたのが日本語が多いということです。英語がほとんど登場しません。
サブタイトルに「英文明細書・特許法のキーポイント」とありますが、主要国の特許法・審査基準・著名な判例の紹介がかなりの部分を占めています。
特許翻訳者だけでなく外国出願を行う実務担当者にも向けた内容にしたことで、焦点がぼやけてしまった感があります。
結果、特許翻訳者および実務担当者のいずれにとっても突っ込みの浅い実務的に中途半端な内容にとどまっています。
他にも細かい点ではありますが、たとえば「4.9.2 means + function(168〜170ページ)」には米国特許法第112条第6項という旧法の条文番号だけが登場し、約2年前の法改正(AIA)で改まった条文番号(記号?)その他に全く言及がないところを見ても、情報鮮度の面で不安が否めません。どうせなら最新の3-prong analysisにも正確に触れて欲しい。結局は最新の条文やMPEPに自分で当たり裏をとる必要があるでしょう。
以上から、これまで特許実務にほとんど関わりが無くその方面の書籍もあまりお持ちでないという方にとっては、外国出願について広く浅く1冊で全体をざっと俯瞰できるという意味で本書は有用かもしれません。逆に、ある程度経験をお持ちでより実践的な内容を求める方であれば、特許翻訳者向けにより実務的なノウハウが記載された書籍と特許実務担当者向けにより突っ込んで書かれた外国出願関連の書籍とをそれぞれ揃えられた方がよいかもしれません。
<補足>
なお、本書のp.121に次のような記載がありますが、これには私も完全に同意します。この辺りの感覚がしっくり来ないという方は本書を読まれる意味が大いにあると思います。
特許翻訳で重要なことは、直訳か逐語訳か意訳かの議論ではなく、内容が100%そのままの状態で変換されているか、言い換えると、明細書が別の言語で再生産(reproduce)されているか、ということだと分かる。
〜中略〜
この「明細書の再生産」というのは、明細書を訳せるだけでなく、一から自分で作成できないとなかなか難しいものがある。したがって、余裕のある翻訳者は、実務者として明細書を書く訓練をしてほしい。さらにいうと、優秀な翻訳者になりたい場合、人生の数年くらいは特許実務者として過ごしてもよいように思う。そのことが、翻訳文の質を確実に上げることになる。
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